文学は芸術なのか、という疑問にストレートに打ち返してくるー本「ジークフリートの剣」感想
講談社文庫から出ている深水黎一郎さん作のミステリー本です。
帯に「ミステリ界の総合芸術」と書いてありそれに惹かれて購入しました。
正直、舞台は観ますがオペラは観たことがな買ったため、分からないのではないかと思って読んでいました。
しかし、オペラの解説書ではないかというほどに丁寧に説明され、物語が描かれているのでとてもわかりやすいです。
オペラ初めましてでも全然読めます。
話の流れはメフィスト賞っぽいと思っていたらこの作家さんはメフィスト賞受賞者でした。
道理で作風が我が道を行っている。流石です。
個人的に講談社のメフィスト賞はゴーイングマイウェイな作家さんが多いような気がして、私はとても好きです。
俺はこれがめっちゃ好き!が本を読んでいて伝わってくるところがものすごく心地いいのです。
話は戻りますが、この本のすごいところは活字の世界であるにもかかわらず、舞台を繊細に描き、ラストシーンで荘厳な雰囲気を見事に再現した表現力にあると思います。
実際に私はこの本のラスト3ページは目に浮かぶ景色があまりにも美しすぎて鳥肌が立ちっぱなしでした。
オペラをそれほど知らない私がそうなったので、オペラ好きには涙が出るほど美しい本なのではないかと思います。
しかしこの本はミステリー本です。
でなければそもそも私手を出していません。
けれどこの物語に謎時が出てくるのはずっと後半です。
3分の2まで読み終わった段階でもまだ普通の芸術小説でした。
けれどラスト怒濤の謎解きからの舞台のフィナーレは、何度も言いますが実に美しい。
きっとこの物語の構成もオペラを模したものになっているのでしょう。
物語のはじめに登場する占いのおばあさんは、歌劇でよく目にする予言の魔女か、お告げの魔女といったところです。
はじめは確かにだらだらと進む印象が強いですがどんどん面白くなっていき一気に読み終わってしまいました。
芸術とはなにか、ということにも言及していることもこの本の面白い点かもしれません。
芸術分野に1度でも足を突っ込んだことのある者なら、必ずぶつかる命題だと思います。
娯楽と芸術は相反する存在であり、共存はしません。
けれど芸術の始まりが娯楽である人は案外多いのではないかと思ってしまいました。
なにげない楽しみが高じてプロになる人も少なくないのではないかと。
音楽業界というのは、他の芸術とはまた違い、特殊な感じはしますが。